「何が違うのか?」


夏はスポーツも暑い。
インターハイや、甲子園、世界大会など、学生もプロも、見る者をを魅了してくれる。


先日、長男から、
「インターハイとかで優勝するチームと、俺らと何が違うんやろな。」

と、ポツリ、わたしに尋ねてきた。


長男は、小学3年生の冬にサッカーを始めた。
生まれつき、筋肉質で、走るのが速かったため、小学1年生の時から、サッカー部の友だちから誘われていたようだが、わたしが、ずっと、

「まだ、いいよ。やらなくて。」

と、言っていた。
彼は、足こそ速いが、ガツガツした性格ではない。

幼稚園のときは、運動会の徒競走で、友だちよりも先にゴールするのが、恥ずかしいような、悪いような。
なので、2番目に来る友だちを気にしながら、申し訳無さそうに、とりあえず、1位でゴールする。というような感じだった。

小学1年生の時に、訳も分からず、運動会のリレー選手に選ばれた。
昼休みに練習するのに、全く乗り気じゃなかったが、とりあえず必死で走った。
すると、6年生のお兄ちゃんから、めちゃくちゃ褒められた。
友だちからも、めちゃくちゃ褒められた。
そのときに、初めて、

「一生懸命、走るのも悪くないかもな。」

と、思えたそうだ。

そんな彼には、まだ、時間の使い方を、縛ることなく過ごして欲しかった。いろんな経験を積んでほしかった。

しかし、それから3年が経ち、相変わらず友だちは、ずっと誘ってくれていたらしい。

そして、3年生の冬に、入部した。

チームメイトの同級生のほとんどが、小学1年生から入部していて、彼はいつも何もうまくできずに、ただただ、不安な日々だったはずだ。


わたしも、中学からバレーを始めたときは、1人ほぼ未経験者で、それでもスタメンに入れられてしまい、チームメイトから、総スカンを食らってしまった。
そりゃそうだ。
下手くそな奴は、足手まといでしかない。


だからこそ、彼の心情もわかる。

3年生の2月ころだろうか。
彼が、珍しく体調を崩した。なんやかんやで、1週間ほど、学校を休んだ。

わたしは、彼に、
「どうするん?サッカーやめるん?」
と、投げかけた。

彼は、
「・・・なんで?」
と、返してきたので、

「あんた、サッカーが面白くないんやろ?自分だけできないから、みんなが認めてくれないやろうし。」

「・・・」

「どうするん?このまま、やめるん?練習しなきゃ、一生、上手くはならないよ?一生、みんなには追いつかないよ?どうするん?」

「・・・やってみる。」

それから、また、学校に行き、練習にも参加するようになった。


ある日、練習から帰ってくると、
「みんなが俺の足を踏む!」
と、訴えてきた。

「あらー、痛かったやろね。でも、それがサッカーだよ?踏まれてるのは、あんただけじゃないよ?どうする?サッカーやめる?」

「・・・やめん!」

おそらく、足を踏んでも良いなんてことが、まかり通るなんて、この世の成り立ちに衝撃だっただろう。


そして、また、ある日、

「〇〇くんが、『お前、下手くそだから、もう来なくて良いよ!』と言ってきた!」

と、よほど悔しかったのか、泣きながら訴えてきた。

わたしは、
「そりゃそうやろなぁ。あんた、下手クソやん。
前にも言ったけど、練習しなきゃ上手くはならんよ?
そいつに、本当のこと言われて逃げたら、一生このままだよ?
上手くなるまで、誰も認めてはくれない。
下手くそは足手まといなんよ。
わたしも、そうだったよ。だから、わたしは逃げなかった。みんなに認められるまでやった。
あんたは、どうする?」
と、投げかけた。

長男は、泣きながら、
「やめん!」
と、言っていた。


誰が正しいとか、傷ついたとか、そういうことではない。
どれだけ傷つこうが、この状況を変えることができるのは、自分だけなのだ。


小学4年生になる春休みに、たしか4・5年生対象の大会があり、参加した。
そこに、長男が起用された。


長男は、ガックリとしていた。
なぜなら、自信がないから。
わけのわからないまま、怒られるかもしれない・・
不安でしかない。

わたしは、それまで、長男のサッカーを見に行ったことがなかった。
それは、長男にとって、プレッシャーにもなるだろうと思っていたからだ。


その大会の1日目が終わると、同級生の保護者から連絡が次々に入り、
「今日は、1人ずっと監督に怒られていたから、フォローしてあげてね。」
という心配の声だった。


ははぁ〜ん。
よっぽど、絞られたんだな。


長男が帰ってきたので、
「あんた、今日は怒られたらしいなぁ?みんなが心配してたよ?」

長男は、元気なく返事をする・・

「仕方ないわ。下手くそなうちは、みんなそうなるよ。」



長男は、怒られたことが嫌なのではなく、
どうしたらいいかわからなかったのだ。
監督の言うことを、自分がどう体現したら良いのか、それがわからなかったのだ。


次の日、大会2日目の朝、
集合場所まで、送る車内で、
わたしは、長男に、

「あんた、どうしたら良いのかわからんのやろ?」

「・・・うん。」

「あのね、監督はあんたがまともにボールも蹴れないことくらい、わかってるんよ。
それでも、あんたを使いたい理由は何?
あんたの、足の速さやろ?
あんたは、ゴール前やろ?
いつも相手の、強くて上手い人がシュートを打ってくるやろ?
その人たちの、邪魔をするのが、あんたの仕事や!
あんたに上手にボールを蹴れ!なんて、そんな要求、監督もしてないはずよ?
わたしが監督でも、そんな要求しない。
あんたの足の速さで、相手についていって、試合が終わるまで、相手に絶対に気持ちよく蹴らせないことが、あんたの仕事なの!
わかる?
あんたがそれをサボったら、8人制なのに7人でやってるのと同じなの!
自分の仕事をサボったら負けるんよ。
キーパーを1人で守らせたらダメなんよ。
あんたがその前の盾にならないと。
それがあんたの仕事。
わかった?
今日も、自分の仕事を最後までやってこい!」

そう言って、送り出した。

彼は、やっと自分のやるべきことが、理解できたようで、ホッとした顔と、力強い声で
「わかった!」
と、車を降りた。


それからは、小学生のうちは、試合の日の朝は、

「自分の仕事、ちゃんとしておいで。
しっかり、走っておいで。」

と言って、送り出していた。


小学6年生の冬に、
サッカーに集中できる環境の学校に行くか?という選択肢が出てきた。
練習会に参加するかというところで、

長男は、
「行かない。」

と、言ったが、
わたしは、

「自信がないんやろ?」

と、返した。

「うん。」

「だったら参加して、玉砕された方が、諦めもつくよ?」

と、話した。

すると、友だちから誘われて、渋々参加したが、
その足で、

「俺、やっぱり、行きたい!」

と、いうことで、そちらに進学させてもらった。


練習内容も劣っているとは思わない。
何より、指導者の熱意が凄い。

そんな中でも、ひたすらついていく日々だった。

すると、彼らの学年は、中学3年生の時、全国3位になった。

何か、やってくれそうな代だったが、
やっぱりな。という感じだった。


そのまま、その学校の高校にも進学し、今は高校2年になった。


チームは、県でも優勝できなかった。

あのとき、全国3位になったときに競り合ったチームは、今年、全国制覇を成し遂げた。


ほかにも、強豪チームはたくさんある。

いろんな試合の動画が上がってくる。


それを見るたびに、思うのは、
「俺たちと何が違うのか?」


そう、素朴な疑問だ。
練習すればするほどに、湧き上がる疑問でもある。


彼は、わたしに尋ねてきた。
彼は、わたしが、強豪チームに在籍していたことを知っている。

だから、いざというときに、ここぞ!の質問をしてくる。

わたしは、

「意識が全然違うわ。」

と、一言。

彼は、ピンとこないようだ。

「勝つ気がないやん?」

「そんなことねーよ!」

「そうかな?そりゃ練習をサボってるとか、一生懸命してないとか、そうは思わない。がんばってると思う。だけど、勝つ気がないやん?」

「どういうところが?」

「監督の勝ちたい気持ちに、あなたたちは負けてるじゃん。」

「あぁ、そうかもな。でも、やっぱり技術の差もあると思う!」

「そりゃね。だけど、それも意識だよ?
あんたはこれまで、いろんな強豪チームと練習してきて、珍しい練習してた?」

「確かに、どこも同じような練習やったな。ってことは、監督の練習メニューは、そのレベルってことか。」

「でしょ?となれば、やっぱり意識の差じゃん。
Tシャツの畳み方と同じだね。」

「どういうこと?」

「2枚のTシャツがあるとして、同じようにどちらも畳まれている。
だけど、それぞれ、めくってみると、1つはきちっと端と端を揃えて畳んでる。
もう1つは、ぐちゃっとしたまま畳まれてる。
あなたたちは、後者。
見えている部分は変わらないけど、見えない部分で差がつく。
ちょこっとしたことよ?
それはもう、意識のレベル。」

「うん・・・」

「ま、とにかく、監督の気持ちに勝てないと無理だね。監督に、もうわかった!もういい!と言わせるくらいだったら、勝てるんじゃないかな?
とりあえず、自分の部屋から片付けることだね。」

「みんなそうやって片付けろとか、言うけどさ・・・」

「みんな言うやろ?
てことは、そこに必ず何かあるってことなんよ。
それは、やった奴しかわからん。」

「まぁ、そうやけど・・」




それから、しばらく遠征に参加していた長男が、帰ってきたので、迎えに行った。

その車内で、どうだったか尋ねたら、

「ボロ負け!ほんと、腹が立つ!」

と、珍しくイライラしていた。

「そうなん。意識が足りんやったんな。」

「意識って言われても!動かん奴は、動かんし!」

「そこを、声かけて鼓舞するしかないやん?」

「声かけたって、おせーんよ!走らんし、サボるし!
そこを、俺がカバーに行けば、後ろがガラ空きになるしさ!」

「だとしても、諦めたらダメやん?」

「でも!どうすることもできんやん?
俺1人、走ったとしても、どうすることもできんやん!」

「わかるよ。それでも諦めたら、ダメなんよ!
わたしは、バレーしてて、約束事があった。
昔は、15点マッチだった。
例え、0対14で、負けてたとしても!絶対、諦めたらダメなんよ!」

「サッカーなんか、どうするん?どうしようもねーやん!!」

長男は、持っていた携帯電話を、自分のカバンに投げつけた。
涙が溢れて止まらない。


「それでも、諦めたらダメなんよ!
『アイツがこうだから!』って、人のせいにして、
自分もそいつと同じ状態になるなら、結局、同類なんよ!

ピッチに11人いて、10人が諦めたとしても!
それでも自分は諦めたらダメなんや!
たった1人でも、最後まで、自分を裏切ったらダメなんや!!」


「・・・」



ここまで、悔しい思いをしたのは初めてだろう。
もっとできた。もっとやれた。
悔いばかりが残る。

それは、すべて、意識が足りないのだ。

『徹底的に』という言葉の意味の重さを、知らない人間は多い。



さぁ、彼が今後、どう乗り越えていくのか。

どういう選択肢を選んでも、それが彼の人生。



中途半端にやってきた人間ほど、
技術だなんだと、小手先のアドバイスをしたがる。

それは、意識の重要性に気づくことなく、今に至るからなのかもしれない。


徹底的にやってきた人間ほど、多くは語らない。
それは、根本が何かを知っているから。

スポーツにしろ、何にしろ、
すべては、人生をどう生きるか?のツールでしかないのだ。